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大阪家庭裁判所堺支部 昭和51年(家イ)467号 審判 1977年1月14日

申立人 木村奈津子(仮名)

相手方 木村英敏(仮名) ほか一名

主文

相手方木村英敏と相手方鈴木京子が昭和五〇年一一月一一日大阪府藤井寺市長に届出た婚姻を取消す。

理由

1  本件申立の趣旨は、主文同旨の調停・審判を求める、というのであり、その申立の実情として述べるところは、次のとおりである。すなわち、申立人は昭和二二年八月二五日相手方木村英敏と婚姻(以下、本件前婚という)したものであるが、相手方木村英敏は、昭和五〇年一〇月一一日申立人に無断で本件前婚の協議離婚の届出をし、同年一一月一一日相手方鈴木京子と婚姻(以下、本件後婚という)した。このことに気づいた申立人は、相手方木村英敏を相手方として当庁に上記協議離婚の無効確認の調停・審判を求める申立をし、その事件(当庁昭和五一年(家イ)第四六六号協議離婚無効確認調停事件。以下、前件という)につき当裁判所は、昭和五一年一一月一一日上記協議離婚の無効確認の審判をし、その審判は、同年一二月二日確定した。従つて、本件後婚は、本件前婚と重婚になるので、申立人は、相手方両名を相手方として本件後婚の取消を求める。

2  昭和五一年一二月一六日本件調停委員会の調停において、当事者間に主文同旨の合意が成立しその原因たる事実関係についても争いがなかつたが、前件の一件記録によれば、上記申立の実情のとおりの事実関係が認められる。

3  ところで、前件の一件記録によれば、相手方両名は、昭和五一年九月二一日協議離婚したことが認められるところ、後婚が離婚によりすでに解消している場合には後婚の取消は取消の利益がなく許されないとする見解もないではないが、婚姻取消と離婚とは、一般的にはともに将来に向つて婚姻を解消するものであり、その限りでは共通点を有するけれども、そもそも離婚が完全有効な婚姻の成立を前提とするものであるのに対し婚姻取消は不完全に成立した婚姻の成立過程の瑕疵をとがめようとするものである点において両者はその持つ社会的意味が異るのみならず、効果の点においても両者は財産関係では顕著な差異があり(民法七四八条二項、三項参照)、そのことは殊に重婚を理由とする婚姻の取消の場合には前婚の配偶者と後婚の配偶者との間の衡平を保つ上から重要である(後婚の配偶者には、後婚によつて取得した財産を一旦返還させ、財産分与にあたつては前婚の配偶者の存在をも考慮に入れてその額等を決するのが、双方の衡平に合うものと言えよう)から、少くとも本件のように前婚の配偶者から重婚を理由に後婚の取消を求めている場合には後婚につきすでに離婚がなされていても取消の利益がないと言うことはできず、婚姻取消は許されるものと言わなければならない。

4  よつて、当裁判所は家事調停委員密門光昭、同香月若の意見を聴いた上、上記合意を正当と認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 露木靖郎)

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